八丈島の歩き方
「おじゃりやれ」は「ようこそ」の意味。ユネスコが消滅危機認定した八丈方言の話

文化2026年5月26日

「おじゃりやれ」は「ようこそ」の意味。ユネスコが消滅危機認定した八丈方言の話

2009年ユネスコ消滅危機言語に登録された八丈語。本土の日本語からの訛りではなく、奈良時代以前の上代日本語を残す独自言語。よく聞く島ことば一覧と、話者が減り続ける現状。

僕

ホテル運営者・編集長 / 2026年5月26日

島で居酒屋に座っていると、たまにわからない言葉が混じります。年配の漁師さんが奥さんに「にしゃ、ありゃ持ってきてくれ」と頼んでいて、「ありゃ」が何を指しているのかわからない。あとでマスターに聞いたら、「お酒のことよ」と教えてくれました。

八丈方言です。地元では「島ことば」と呼ばれています。ふつうに耳にしている分にはなんとなく意味が掴めるんですが、深く入ると、本土の日本語とは別の言語のようなところがある。それを最初に強く感じたのは、移住して半年くらい経った頃でした。

2009年、ユネスコの消滅危機言語に登録された

2009年、ユネスコは世界の消滅危機言語をまとめた地図を発表しました。そのなかで、日本国内からは8つの言語が登録されています。アイヌ語、八重山語、与那国語、奄美語、国頭語、沖縄語、宮古語、そして八丈語です。

ユネスコの定義では「方言」ではなく「言語」として独立に扱われている、という点が重要です。八丈方言は、本土の日本語からの単なる訛りではなくて、独自に発展した言語と認定されているわけです。

具体的に何が違うかというと、八丈方言は奈良時代以前の上代日本語の特徴を、いまも色濃く残しています。本土ではすでに失われた古い音や活用形が、八丈島の日常会話の中で生きている、と言語学者は言います。

よく聞く島ことば、いくつか

島で耳にする(する可能性の高い)単語をいくつか挙げます。これは厳密な辞書の引用ではなく、僕が島で覚えてきた範囲の話なので、ニュアンスは現地で確認してみてください。

  • おじゃりやれ:「いらっしゃい」「ようこそ」。来島時にいちばん最初に出会う島ことばだと思います
  • おじゃれ:おじゃりやれの短縮形。「来てね」
  • にしゃ:「あなた」「君」
  • :「私」
  • ありゃ:「あれ」「あの」(物にも、時にも使う)
  • のっこい:「多い」「たくさん」
  • 〜なれぃ:「〜だね」「〜よ」(語尾)
  • 〜ばさり:「〜ばかり」(やたら多い)

会話の中に混じると、こんな感じになります。「にしゃ、にっこいけど、わはのっこい食べたなれぃ(あなたは小食だけど、私はたくさん食べたよね)」。最初は本当に何を言われているか掴めないですが、3ヶ月もすると耳が慣れてきます。

話者は減り続けている

八丈方言を流暢に話せる人は、現在おそらく島内に数百人レベル。多くは70歳以上の方で、若年層への継承は厳しい状況です。八丈町ではここ十数年、保存資料の整備や島ことば辞典の編纂が進められていますが、日常会話で使われる場面はゆっくり減っています。

島で5年暮らした今でも、僕は流暢には話せません。覚えても使う機会がないと、すぐ忘れる。だからこそ、聞ける場所には自分から足を運ぶようにしています。漁港の朝、お年寄りが集まる温泉の脱衣所、夏祭りの太鼓打ちの輪。「ありゃ、にしゃ、お久しぶりなれぃ」と言われる側になれたら、たぶん移住者として一段階上がったと思っています。

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